大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和28年(オ)673号 判決 1955年6月24日

愛知県東加茂郡下山村大字東大沼字石坂二番地の二

上告人

鈴木幸男

右訴訟代理人弁護士

島田新平

大内正夫

岐阜市加納天神町四丁目四一番地

被上告人

小林三之助

右当事者間の仮処分異議事件について、名古屋高等裁判所が昭和二八年五月二一日言渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人大内正夫、同島田新平の上告理由は別紙記載のとおりである。

しかし、上告人申請にかかる所論第二次仮処分が、その内容において、第一次仮処分命令と牴触することはあきらかであつて、先行仮処分と内容において牴触する仮処分は許されないとした原判決の判断は正当である。論旨引用の判例は適切でなく、論旨はすべて理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田克)

昭和二八年(オ)第六七三号

上告人 鈴木幸男

被上告人 小林三之助

上告代理人大内正夫、同島田新平の上告理由

第一点 原判決は理由不備の違法がある。

即ち原判決は

「岐阜地方裁判所大垣支部ガ、昭和二十六年六月十六日債權者ハ被控訴人(被上告人)債務者ハ控訴人(上告人)及鈴木幸七ナル、同庁昭和二六年(ヨ)第二九号仮処分申請事件ニ於テ「控訴人(上告人)及鈴木幸七ハ、岐阜県揖斐郡藤橋村大字東杉原字深谷千百九十八番山林四百六十町歩外山林原野十三筆ニ立入リ、且立木ヲ伐採シテハナラナイ。控訴人(上告人)及鈴木幸七ハ、右山林ノ立木ニツキ被控訴人(被上告人)ノナス伐採搬出等ノ事業ノ阻止又ハ妨害或ハ同事業ノ妨ゲトナル一切ノ行為ヲシテハナラナイ」トノ趣旨ノ仮処分決定(本件当事者ガ第一次仮処分ト稱スルモノ)ヲ為シタコトハ当事者間争ガナイ。ソシテ本件仮処分ハ岐阜地方裁判所ガ、昭和二十六年七月十三日、債權者ハ控訴人(上告人)債務者ハ被控訴人(被上告人)ナル同庁昭和二十六年(ヨ)第三四号仮処分申請事件ニ於テナシタ「岐阜県揖斐郡藤橋村大字東杉原字深谷千百九十八番山林四百六十町歩ニ対スル被控訴人(被上告人)ノ占有ヲ解キ、コレヲ控訴人(上告人)ノ委任スル岐阜地方裁判所執行吏ヲシテ占有保管セシメル。被控訴人(被上告人)ハ右山林立木ノ伐採並搬出ヲシテハナラナイ。執行吏ハ前記趣旨ヲ公示スルタメ適当ナ方法ヲ講スルモノトスル」トノ趣旨ノ仮処分決定(本件当事者ガ第二次仮処分ト稱スルモノテアル。

右ノ如ク第一次ノ仮処分ニ於テ、控訴人(上告人)ハ本件深谷千百九十八番山林四百六十町歩ノ立木ニツキ、控訴人(被上告人)ノナス伐採搬出等ノ事業ノ阻止妨害ヲ為スコトヲ禁ゼラレ、ソノ反面被控訴人(被上告人)ニ本件山林ノ立木ノ伐採搬出ヲ許容シテイルノテアルカラ、本件第二次仮処分ガ、控訴人(上告人)ノ申請ニ基キ被控訴人(被上告人)ガ右山林立木ノ伐採搬出ヲ為スコトヲ禁ジ、或ハ被控訴人(被上告人)ノ右山林ニ対スル占有ヲ解キ執行吏ノ保管ニ付スルコトハ、即チ第一次ノ仮処分ニ牴觸スルモノテ、違法トイワナケレバナラナイ。ヨツテ他ノ争点ニ関スル判斷ヲ待ツ迄モナク之ヲ取消スベキテアル。控訴人(上告人)ハ被控訴人(被上告人)ガ其ノ有スルト主張スル本案訴訟ノ權利保全ノ為メノ仮処分ヲ求メ得ベキト同様ニ、控訴人(上告人)モ亦其ノ有スル本案訴訟ノ權利保全ノ為メノ仮処分ヲ求メ得ベキモノテ、両者共ニ許容サルベキテアルトイフケレドモ、同一目的物ニツキ既ニ一定ノ内容ノ仮処分ガ為サレテイル以上、仮令該仮処分ノ債務者ガ右目的物ニツキ反訴又ハ別訴ノ提起ニヨリ保護ヲ求ムベキ請求權ヲ主張シ、該權利ノ保全ノ為メ仮処分ヲ求ムル場合ト雖モ、第一次ノ仮処分ノ内容ト相容レナイ仮処分ヲ為シ得ベキテハナイ。

蓋シ之ヲ許ストスルモ前ノ仮処分ハ後ノ仮処分ニヨツテ取消モシクハ変更サレルモノテハナイカラ、コヽニ相牴觸スル二個ノ仮処分ガ併存スルコトヽナリ、ソノ不当ナルコトイフマテモナイカラテアル。右ノ如キ場合債務者ハ第一次ノ仮処分ニ対スル異議申立ニヨリ、其ノ取消変更ヲ求メ、或ハ其ノ取消ヲ待ツテ自己ノ權利保全ノ為メ仮処分ヲ求ムベキテアル。

控訴人(上告人)ハ本件第二次仮処分ハ第一次仮処分ト牴觸シテイナイト主張スルケレドモ、前記ノトオリ右第一次仮処分決定ト第二次仮処分決定ノ主文ヲ対照スレバ両者牴觸スルコトハ自明ノ理テアル。然ラバ原判決ガ本件第二次仮処分ヲ取消シ控訴人(上告人)ノ右仮処分ノ申請ヲ却下シタノハ正当テアル」

と判示し、所謂第二次仮処分に対する被上告人の異議を認容した第一審判決を支持された。

一、原審は右第一次仮処分決定主文の趣旨を以て、上告人に対する一定の不作為命令であると判示した(此判示は正しい)外、更に進んで該仮処分を以て、

「被控訴人(被上告人)ニ本件山林ノ立木ノ伐採搬出ヲ許容シテイル」

と認定した。

若し原審認定の如く、本件第一次仮処分が被上告人に対し、係争山林立木を伐採搬出すること(即ち被上告人主張の伐採搬出權の実現行使―權利の終局的滿足)を、該仮処分によつて許可されて居るならば、之を禁止する本件第二次仮処分は其の内容に於て牴觸するとの原審所論は正しいであろうし、之を前提とした原判決の判示は理路も一貫するものと思はれる。

乍併、右第一次仮処分と第二次仮処分とを比照すると、両者は其の当事者に於て、係争物の範囲に於て、被保全權利に於て、仮処分申請の趣旨に於て、保全手段に於て同一ではないのみならず、其の仮処分決定の主文のみを対比しても、両者は互に相手方に対する一定不作為を命ずる消極的処分(所謂不作為命令仮処分)を主眼とするもので、只第二次仮処分は相手方の不作為を有效確実に実施する為め、係争物に付執行吏占有保管命令が附加されて居るに過ざないものであることは左表の通りであるから、両者は毫も相牴觸するものではなく、従て此点に付ての原審判示は甚だしい誤断と謂わざるを得ない。(左記対照表御參看)

要項 第一次仮処分 第二次仮処分 差異

当事者 債權者 被上告人 債務者 上告人及 鈴木幸七 上告人 被上告人 当事者が異る

仮処分の目的物(係争物)の範囲 本件深谷一一九八番山林四百六十町歩 外十三筆の山林原野 本件深谷山林(一、一九八番)四百六十町歩 仮処分の目的物(係争物)の範囲に広狹の差あり

被保全權利 右係争物に関して 被上告人の有すると主張する立木の伐採搬出權 右係争物に関して 上告人の有すると主張する立木の伐採搬出權 各保全せんとする權利が異る

仮処分申請の趣旨 右係争物に関し 上告人及鈴木幸七に対し一定不作為命令を求めるに在る 右係争物に関し 被上告人に対する一定不作為命令、執行吏占有保管命令を求める 仮処分申請の趣旨(仮処分の目的)が異る

保全の手段 係争物に関し 上告人及鈴木幸七に対する一定の不作為命令である 係争物に関し 被上告人に対する一定不作為命令、執行吏占有保管命令 保全の手段が異る

主文 一、被申請人等(上告人及鈴木幸七)は別紙目録記載の山林(深谷一、一九八番山林四百六十町歩外十三筆)に立入り且立木を伐採してはならない 二、被申請人等(上告人及鈴木幸七)は別紙目録記載の立木に付申請人(被上告人)の為 一、本件山林四百六十町歩に対する被申請人(被上告人)の占有を解き之を申請人(上告人)の委任する岐阜地方裁判所執行吏をして占有保管せしめる 二、被申請人(被上告人)は右山林立木の伐採並に搬出をし 両者共に相手方に対し本件山林の伐採搬出(權利行使)を禁ずる不作為命令仮処分であつて、 仮処分權利者の權利行使を命ずる仮処分でない 従て両者は牴觸しない 両者を競合併存せしめるこ

す伐採搬出等の事業の阻止又は妨害し或は同事業の妨けとなる一切の行為を為してはならない てはならない とによつて係争物の現状を保全することが出来双方の權利は保全の目的が達成し得る

二、惟うに原審は本件第一次仮処分を以て、被上告人に対し本件山林立木の伐採搬出(即ち被上告人主張の權利の実現行使)を許可し認容して居るという誤つた認定を前提として居るからこそ、第二次仮処分の趣旨は第一次仮処分と相牴觸するとの第二の誤斷が生じたものと思われるから、以下聊か此点に付考察を加える。

(1) 前示第一次仮処分決定主文を熟視すれば容易に理解し得る通り、上告人は該仮処分によつて本件山林に立入り、立木を伐採搬出したり、被上告人の事業の阻止妨害をすることを禁じられた結果、被上告人は従来行いつゝあつた本件立木の伐採搬出事業を行う事実上の状態を継続し得ることになつたのは確かである。併しながら被上告人は該仮処分によつて、其の主張する係争立木を伐採し搬出する權利の実現行使(終局的滿足)を許可されたが為めに係争立木を処分し得ることになつたのではなく、此係争立木に付上告人は手出することを該仮処分によつて禁じられた其の反射的作用に外ならないことは該仮処分決定主文の文辞によつて明かである。

(2) 若し原審認定の如く、第一次仮処分が上告人に対し一定不作為を命ずるのみならず、更に一歩を進め「被上告人ニ係争山林ノ立木ノ伐採搬出ヲ許シタ」仮処分であると解し得るなら、該仮処分は最早權利の保全処分たる仮処分の範囲を逸脱するもので、法律上許されないことになる。何となれば被上告人は該仮処分によつて確定判決を得たと同様に、其の伐採搬出權を驅使し係争立木を伐採搬出を為し權利の完全な滿足をして了うことになるし、夫れは正に原状回復を為し得ない方法によつて、權利の実現行使を許したことになり、仮処分なるものは、本案訴訟に於ける權利を保全する為めの仮定的暫定的緊急処分であるという仮処分の本質に反するから、斯る仮処分は係争物に関すると、仮の地位を定めるものであるとを問わず、法律上許容されないからである。(註一)

(註一)同旨判例

昭和二三年(オ)第一〇二号、昭和二四年四月二六日御庁第三小法廷判決

三、原審は又、本件第二次仮処分を「許ストスルモ前ノ仮処分ハ後ノ仮処分ニヨツテ取消モシクハ変更サレルモノテハナイカラ、ココニ相牴觸スル二個ノ仮処分ガ併存スルコトニナリ、ソノ不当ナルコトイフマテモナイカラ……第一次仮処分ニ対スル異議申立ニヨリ其ノ取消変更ヲ求メ或ハ其ノ取消ヲ待ツテ自己ノ權利保全ノ為メ仮処分ヲ求ムベキテアル」と判示せられた。

乍併、当事者互に同一係争物に付、其の伐採搬出權を有することを主張する二個の争訟の存する本件のような場合に、被上告人に対しては上告人の一定不作為を命ずる仮処分を許し、其の間被上告人をして係争立木を伐採し搬出せしめたら、後に殘る係争物は何にもなくなり、原状回復も不可能になるから、上告人の權利は重大な危害を蒙ることになる。故に第二次仮処分を以て被上告人の一定不作為を命ずる仮処分を許し上告人の權利を保全したとて、どうして二個の仮処分が相牴觸するであろうか、又何の不合理不都合があるであろうか。寧ろ二個の仮処分の競合併存を許してこそ、係争物の現状を保持し後に本案訴訟に於ける判決の執行を保全する目的を達成せしめる所以でもある。本件第一次仮処分、第二次仮処分共に孰れも此趣旨を出でないものであつて、此二個の仮処分の競合併存を許すことは、極めて適切且妥当と謂わざるを得ない。

四、原審は又

「控訴人(上告人)ハ被控訴人(被上告人)ガ其ノ有スルト主張スル本案訴訟ノ權利保全ノ為メノ仮処分ヲ求メ得ベキト同様ニ、控訴人(上告人)モ亦其ノ有スル本案訴訟ノ權利保全ノ為メノ仮処分ヲ求メ得ベキモノテ、両者共ニ許容サルベキテアルトイフケレドモ、同一目的物ニツキ既ニ一定ノ内容ノ仮処分ガ為サレテイル以上、仮令該仮処分ノ債務者ガ右目的物ニツキ、反訴又ハ別訴ノ提起ニヨツテ保護ヲ求ムベキ請求權ヲ主張シ、該權利保全ノ為メ仮処分ヲ求ムル場合ト雖モ、第一次仮処分ノ内容ト相容レナイ仮処分ヲ為シ得ベキモノデハナイ」

と判示した。

乍併

(1) 同一目的物に付二個の同様な權利関係の競合することは、現社会生活に於て絶無ではなく両者間深刻な權利鬪争が展開されることは周知の如くであつて、従て又同一物件に付二個の同様な仮処分が競合併存することは權利保全の手段として仮処分制度の存する以上、当然生起するところであり、毫も之を異とするに足らないし、当事者は夫々の立場に於て係争物に関する自己の權利が危害を蒙り又は蒙る虞ある時は、各其の必要の限度と方法に於て公平平等に其の權利の保全処分を求め得なければならないことは勿論と思われる。

若し係争物に関し当事者の一方の申請によつて、一旦其の相手方に不作為を命ずる仮処分があつた場合、其の相手方は如何に自己の權利が時々刻々危害を蒙り、之が保全を求むる緊急の必要があつても、其の保全処分申請の手続が、只一歩他より遲れたという全く偶然の事実によつて、其の權利の保全処分が得られないものとすれば、先着手仮処分權利者のみ獨り確定判決を受けたと同様に其の權利の内容を実現行使し得るに反し、後手に廻つた他の一方の当事者は、先着手仮処分權利者の傍若無人な權利侵害を、只拱手傍觀して其の蹂躙に屈服せざるを得ないことになる。

(2) 尤も仮処分に対しては異議取消等直接其の阻止又は除却を求むる法律上の手段は開かれては居るけれども、之が裁判上其の目的を達する迄には相当の日時を必要とする実情であり、其の間先着手仮処分權利者は係争物に付權利の内容を実現行使し所期の目的を達して了う虞がある。斯くては資金豊富、狡猾機敏な悪徳者が奇利を博し、実直迂愚な眞に保護の必要ある者が其の救濟を得られないことにもなる。法律は総ての国民に対し一視同仁機会均等でなければならないし、其の解釈適用は具体的妥当であらねばならない。原判決は此点の思慮を欠いたものといわざるを得ない。

(3) 更に仮令第一次仮処分に対しては、異議取消等によつて其の阻止除却が出来たとしても、それは単に該仮処分が初めから為されなかつた状態に復元するだけであつて、之が為め被上告人が現に加えつゝある上告人の權利を侵害から防護され又は除却される效力があるわけではない。それ故に仮処分が為されなかつた状態に復元した儘では、本件当事者に於て再び実力闘争を顯出するの外なき事態となる。原審は事茲に至つて初めて上告人は更に仮処分により權利の保護を求むべきであるというけれども、遲かれ早かれ孰れ第二次の仮処分をしなければならないものなら、態々第一次仮処分の取消手続に日を送り其の期間に被上告人をして係争物を減滅せしめ、然る後おもむろに係争物の殘肴に付保全処分を許容する必要があるであろうか。

勿論權利の侵害又はその虞ある場合も千態万様であり、従て其の保全処分の手段方法も亦一様でないから、或は原審所論のような悠暢緩漫な方法によつ權利保全の目的を達成し得る場合もあろうし、本件第一次仮処分も係争物現状保持の仮処分なら本案判決の確定を待てば足り、敢て第二次仮処分又は第一次仮処分の異議取消の必要はないのであるが、本件第一次仮処分は上告人に一定不作為を命じそのその反射作用として被上告人をして係争立木を伐採搬出する事実上の状態を継続せしめ、係争物は時々刻々減滅しつゝある実情であるから、斯様な場合本件第二次仮処分は極めて適切緊要であつて、右二個の仮処分は競合併存の必要、理由、実益こそあれ、之を拒否する首肯するに足る理由がない。

(4) 尤も第一次仮処分其のものゝ廃止変更又は執行の除却を直接の目的とする場合は、異議、取消の方法によるべきであるから、斯ることを直接の目的とする第二次仮処分は法律上許容されない(註二)のは当然であるが

註二 同旨判例

大審院昭和三年五月一二日決定民事判例集七巻三五〇頁

右二個の仮処分は偶然相前後して企図され、後の仮処分は前の仮処分の執行の除却を目的とするものではなく、上告人は二個の仮処分の競合併存が許容せらるべきであると主張するのであるから、右判例の趣旨は本件には適切ではない。

五、元来係争物に関する仮処分なるものは、特定物件に関する權利の将来に於ける強制執行が阻害される危險に瀕する場合に、此危險を阻止除却することを目的とするもので、固より仮定的暫定的処置に止るものであるし、其の物に関し相容れない權利の競合することは現社会情勢上遺憾ながら認めざるを得ないから(本件場合も其の一である)第一次仮処分權利者以外の利害関係人も亦、自己の權利を主張し、既に他人が同一特定物に関し仮処分を得て居ると否とを問はず、自己も亦仮処分を申請し其の權利の保全を求むる正当の利益を持つものと謂わざるを得ない。(註三)

註三 同旨文献

吉川大二郎氏著保全処分の研究五版二六六頁十四行以下御參看

之れ同一係争物に関し日常生起する幾多の仮処分競合問題に関して、我民事訴訟法が先着手仮処分權利者にのみ特別、優先、獨占、排他的に仮処分を許す旨の規定の存せざる所以であり、我大審院亦古くより幾多仮処分の競合併存

を認容せられる所以でもある。(註四、五、六、七、八、)

註四 古く仮処分の競合併存を認めた判例

同一係争物ニ付、同一ナル仮処分ヲ為スモ、執行ニ支障ナキ限リハ第二ノ仮処分モ有效ニ執行スルコトヲ得………二者共ニ存在セシメテ敢テ違法ナル所ナシ(大審院明治三八年一〇月二〇日判決、民事判決録二輯一〇四九頁)

註五 仮処分の内容相牴觸する場合第二次仮処分は許されないとの判例(本件は相牴觸する場合でないから此判例は本件に適切ではない)

(大審院昭和四年一一年一九日判決)

註六 同一係争物に付二個の処分禁止仮処分の競合併を認めた判例

債權者ノ為ニスル処分禁止ノ仮処分アル場合ニ之ニ違背シテ為シタル仮処分ト雖絶対無效ニ非ズシテ………同一係争物ニ付別異ノ債權者ノ為ニスル二個ノ処分禁止仮処分命令ガ競合シテ互ニ其ノ效力ヲ生ズルコトハ固ヨリ妨ゲナク云々(大審院昭和四年八月二八日判決法律評論一九巻民訴二五頁)

註七 同一係争物に付同様の方法による二個の仮処分の競合併存を認め、其の執行方法を示教する判例

土地ノ所有者ノ為ニ土地明渡ノ請求本訴ヲ保全スル仮処分ト、家屋ノ所有者ノ為ニスル家屋明渡ノ本訴ノ執行ヲ保全スル為ノ仮処分トハ、縦令同一ノ家屋ニ対シ同様ノ方法ニ依リテ其ノ命令アリタリトスルモ、夫々保全ノ目的ヲ異ニシ、従テ其ノ保全ノ内容並ニ実益ヲ一ニセズ、且民事訴訟法上斯ル場合ニ於テ仮処分ノ執行ヲ禁止シタル規定存セザルヲ以テ、右二個ノ仮処分ノ内既ニ一ノ仮処分ノ執行アリタルノ故ヲ以テ、当然他ノ仮処分ノ執行ヲ拒否スベキ理由ナク、第二次仮処分ノ執行ノ委任アリタリトスルトキハ、執達吏ハ宜シク其ノ命令ノ内容ニ従ヒテ重ネテ執行ヲ為スベキモノニシテ、右手続ハ民事訴訟法第五八六条第二項第三項ノ照査手続ニ関スル規定ニ準ジテ之ヲ処理スルヲ相当トス(大審院昭和七年七月四日決定民事判例集一一巻一九七二頁)

註八 本件に近似した事件に於て第一次仮処分第二次仮処分の競合併存は之を認め第二次仮処分後更に之と同様な申請趣旨の第三次仮処分申請事件に対し、此申請が第二次仮処分の執行の除却を直接の目的とするならば異議取消によるべきであるとして其手続に付て幾多の法律上の根據を教え、又別に其の主張する權利の保全方法を講ぜんとするにあるなら、裁判所は之を釈明せしめて其の許否を決すべきであるとの判例

第一次仮処分事件 第二次仮処分事件 第三次仮処分事件

千葉県免許の漁業權賃借權者たる甲が、同一權利を主張する乙に対し 北条区裁判所に 占有保全の訴を起し 乙ハ甲ガ右漁場ニ既ニ設置シタ側及標識ヲ破壊シ又ハ除去スベカラズ 右仮処分命令を得た 上記の乙は甲に対し 新潟地方裁判所に 漁業權賃借權確認の訴を起し 甲ハ乙ガ該漁業權ヲ実施スルニ付一切ノ妨害ヲ為スベカラズ 甲ガ右漁場ニ設置セル現存ノ側張ハ乙ノ費用ヲ以テ其ノ委任スル執達吏ヲシテ除去セシメ当該執行吏ニ保管ヲ命ズ 右仮処分命令を得た 甲は更に乙に対し 北条区裁判所に 左記仮処分を求めた 右漁場ニ対スル乙ノ占有ヲ解キ之ヲ甲ノ委任スル執達吏ニ保管セシム 乙ハ甲ヨリ乙ニ対スル第一項記載ノ漁業權ノ漁場ニ対スル占有回収ノ訴ノ判決確定ニ至ル迄右漁場ニ就テ側若クハ標識ノ建設ヲ為ス等漁業權ノ実施ヲ為スベカラズ 右申請は却下せられた

右第三次仮処分却下に対する上告事件の決定

今之ヲ本件ニ觀ルニ申請人ノ趣旨那邊ニアリヤ始ヨリ明ナラズ、或ハ前仮処分命令ノ執行ヲ除却セントスルモノヽ如ク、或ハ別ニ其ノ主張ニ係ル權利ニ付テノ保全方法ヲ講セントスルモノヽ如ク、而シテ原裁判所モ亦此点ニ付何等釈明ヲ求メタル形跡ノ認ムベキモノナシ。是重要ナル手続ニ違背シタルモノ、原決定ハ失当ナリ(昭和三年五月一二日大審院決定民事判例集七巻三五〇頁)

之等大審院判例の傾向特に右註七、註八掲記の指導性ある判示趣旨に従えば、本件第二次仮処分は「縦令第一次仮処分ト同一係争物ニ関シ」「同様ノ方法ニ依ル仮処分命令テアル」としても「両者ハ夫々其ノ保全セントスル權利及保全ノ目的ヲ異ニシ」「其ノ保全ノ内容並ニ実益ヲ一ニセズ」「且民事訴訟法上斯ル場合ニ仮処分ノ競合トシテ第二次仮処分ヲ禁止スル規定モ存セザルヲ以テ」本件第二次仮処分を拒否した原判決は大審院判例にも違反し、少くとも之を排斥するに付理由極めて不備の違法があることは右縷述するところによつて明白と思料せられる。

若し權利の保全処分の申請が、本件場合のように只時の前後という全く偶然の事実によつて、当事者の一方が許容せられ他の一方が拒否されるということになると、正義の顯現たるべき裁判が只時の前後という偶然の事実により、左右せしめるに等しい結果となり、如何に保全すべき權利があり保全すべき緊急の必要(即ち保全理由)があつても一歩遲れた權利者は保全処分が得られないことになる。斯くては神聖な裁判が競馬競輪の判定と同様に早い者勝ちという不都合なことになつて了う。原判決は条理よりしても、衡平の原則からいつても、仮処分法規の解釈よりしても不法であつて、到底破毀を免かれないものと信ぜられる。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例